2016年に米国のArc Skoru社によって開発された、建物や場所の持続可能性を管理するためのデータの収集、進捗管理、ベンチマーク評価、インパクトの測定、パフォーマンスの向上を可能にするグローバルプラットフォームであるArc。その日本での普及を目指し、2021年2月1日に株式会社Arc Japanが発足いたしました。発足に伴い、2021年3月23日、Arc及びArc Japanの今後の活動についてお伝えするウェビナーを開催いたしました。本ウェビナーはZoomで行われ、平日にも関わらず400人超の参加者様にご視聴をいただきました。
イベントはArc Skoru社のPresident CEO、Mahesh Ramanujam氏のビデオメッセージで幕を開けました。Ramanujam氏はArc Skoru社の母体である米国グリーンビルディング協議会のPresident CEOも務め、Arcの他にLEEDやWELL認証の普及にも尽力しています。
ビデオの中で、Ramanujam氏には世界最大の資産運用会社BlackRock社のCEOラリー・フィンク氏の書簡の紹介や、グリーンビルディングや持続可能な資産の市場の拡大といった、世界的なトレンドについてお話しいただきました。また、日本におけるESGの重要性、ESG管理ツールに対する機関投資家からの需要の高まりに応え、LEED市場の継続的な成長を促進し、USGBCのビジョンである「健全な場所にいる健康な人々が健全な経済を作る」の日本国内外での実現を共に目指すパートナーとして、Arc Japanを支援する、との熱い応援を頂戴しました。
続いて設立のご挨拶として、Arc Japan代表取締役の平松宏城が、発足に至るまでの想いを語りました。特にお伝えしたい点として、1.Arcは認証制度そのものではないが、認証取得を助けるプラットフォームである、2.認証を目指さないビルの改善も助ける、3.ビル全体ではなくテナントスペースの評価も可能、4.室内空気の安全性の可視化が可能、5.不動産から金融、続いて全産業へという順序での拡大見通し、6.環境教育やクオリティ・オブ・ライフ計測ツールとしての役割、の6点を強調しました。
さらに永積からはArcの概要、なぜ有効なのか、Arcの導入事例の3点を中心にお話させていただきました。概要については、Arcは認証制度ではなくプラットフォームである、という部分を補足して、データ入力、スコア算出、目標設定、スコア改善のルーティンにより不動産運用を通じたインパクト創出が可能であるというユニークな点をお伝えしました。有用性については、脱炭素社会へ向けた移行(トランジション)が求められる中で、スコアリング・ベンチマークが可能である点、データに基づくグローバルな第三者評価が行える点、オンラインを通じて全ての物件が利用可能である点、動的・相対評価を行う点をお伝えしました。導入事例については、KPIデータをArcのポートフォリオで管理し、インパクトレポートでの公表、LEED認証につなげる取組を行っているヴァサクローナンといった北欧の不動産会社やワシントンD.CのゴールデントライアングルBIDというエリアマネジメント組織、札幌市における継続的なパフォーマンス評価の事例を紹介しました。
田中からはデモデータを使用し、Arcの実際の画面を用いてシステム概要についてご説明しました。Arcは入力いただいたデータから直近12ヶ月のスコアを算出します。Excelのテンプレートを使用した一括入力も可能であり、将来的にはスマートセンサーによるデータの自動連携も進めていくつもりです。ポートフォリオ機能についてはサステナビリティ成績や物件ごとの強み、弱みの視覚化をご覧いただきました。Arc Essentialsについてはスコアのモデル化、レポート作成機能、マーケット分析などArcの発展的な使い方をご覧に入れました。
後半のパネルディスカッションでは、三菱地所株式会社から吾田鉄司氏、日本生命保険相互会社から齋尾正志氏をお招きし、Arc Japan(株式会社日本政策投資銀行)の福井幸輝をモデレータ―に、活発に意見が交わされました。両会社とArc Japanは今後半年から1年半をかけて、所有物件のデータの蓄積を行い、実証スタディに取り組んでいくこととなります。
パネルディスカッションの様子 福井:Arcや認証制度にはどのような期待をお持ちでいらっしゃいますか? 吾田様:スコアリングや比較を行うには、まずは仕組みが普及していることが前提となります。その中で様々なタイプのビルが評価対象に入ることを期待しています。 福井:日生生命保険相互会社様の不動産部では様々な物件を保有されていますね。ゼロエミ、ゼロカーボンへのキーはなんでしょうか? 齋尾様:省エネ、再エネなしには達成できないと考えています。最新設備を搭載した新築ビルと比較して自分たちの所有物件はまだまだ省エネを進めるところから始めないといけない。物件の管理会社とオーナー会社が現状を把握し、協働で課題を見出し効率的に対策を取っていくつもりです。省エネを進め、足りないところを再エネで補う、という順序であるべきかと思います。 福井:ビルオーナーとテナントの関係についてお伺いします。今まではある種利益相反する関係でしたが、だんだんと同じ方向へ向いてきたように思います。環境モニタリングの在り方についてどうお考えでしょうか? 吾田様:弊社ではテナント様との契約に原則グリーンリース条項を盛り込んでいます。条項に基づいて具体的に何を行っていくかは今後の検討課題になっています。また、情報共有についてはサステナビリティガイドブックの作成、公開を行っています。廃棄物の削減を呼びかけるなど同じ方向は向けていると認識しています。 齋尾様:同じベクトルに向けてきていると実感しています。テナントのお客さん、株主などのステークホルダーにも同じ方向を向いているのが望ましいです。サステナブルな不動産は、オーナーの一人よがりではなく皆にとって良いものであるべきと考えます。 福井:今後の実証スタディに向けて一言ずつ頂戴できますでしょうか。 吾田様:グローバルな普及を期待しています。ESG評価というと企業に対する評価に限られてしまっていたため、個別物件に対する評価が広がると良いと思います。 齋尾様:同様に幅広い普及を期待しています。古い物件、小さい物件のデータ入力、ベンチマーキングを躊躇してしまうと相対評価の意味がなくなってしまう。みんなが利用できるプラットフォームになることで、意味のある取組になることを願っています。
最後に、東京都環境局地球環境エネルギー部統括課長代理千葉稔子氏から中継でメッセージをいただきました。東京都は脱炭素化をめざす世界の大都市として、2019年のゼロエミッション東京戦略の策定、2021年1月のダボスアジェンダでの温室効果ガス排出量の削減目標の宣言など、建物を対象とした省エネ・CO2削減対策に意欲的に取り組んでいます。先月都が開催した、気候危機行動の世界的ムーブメントを展開していくためのキックオフ会議では、改めて建物由来のCO2対策の重要性を強調しており、千葉氏から「Arc Japanの取組である、不動産の環境パフォーマンスの見える化と、ファイナンスとの連携についてのケーススタディは、まさに都が考えるサステナブルファイナンスと連携した建物・不動産対策と方向性と軌を一にするもの」、との連携への意欲をお聞かせいただきました。
Arcについて Arcはエビデンスに基づいた検証を提供し、全てのステークホルダーがサステナビリティに関する進捗状況を相互に伝え、マイルストーンを追跡できるようにします。Arcのパフォーマンス・プラットフォームは建物や場所の持続可能性を監督する専門家が、データを収集し、進捗状況を管理・ベンチマークし、影響を測定し、パフォーマンスを向上させることを可能にします。Arcはユーザーがサステナビリティのパフォーマンスを理解し、向上させ、居住者の体験を向上させ、室内環境の空気の質を向上させ、ESGパフォーマンスを報告し、世界をリードするグリーンビルディング認証プログラムであるLEEDの取得を可能にします。プロジェクトはArcを使用して、持続可能性のパフォーマンスを長期的に管理、追跡、改善し、LEED認証に向けて取り組み、認証を最新の状態に保つためにLEEDパフォーマンスを毎年検証することができます。またArcは、ポートフォリオマネージャーが自社の資産、企業、ファンド、ESGパフォーマンスの理解、分析、改善を支援することで、ESGに関するコンプライアンスをサポートします。データをプラットフォームに提出することで、ポートフォリオマネージャーはパフォーマンスが不十分な資産を迅速に特定して改善し、LEED認証要件を満たすために十分なパフォーマンスを発揮している資産を特定することもできます。Arcは持続可能性の主要パフォーマンス指標の追跡にも利用できます。これにはプロジェクトレベル、またはポートフォリオ全体のエネルギー消費量、温室効果ガス排出量、室内環境品質、廃棄物管理、水の消費量などが含まれます。